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ぼちぼち訪問看護 ~回想録~ その㉔お別れまでの時間
こんにちは。看護部門・副管理者の大塚です。
新しい年が明け、もう2月。早いものですね。
訪問看護に携わって気が付けば20年余り・・。
「昔もあって、今も変わらないもの」「今までも、これからも大切にしたいもの」をぼちぼち綴ります。
休日。
利用者さん宅にお伺いし点滴の準備をしていると、オンコールの携帯電話が鳴りました。
数日前に訪問看護利用の契約が済んだばかりのTさんの奥様からです。
「昨夜から夫の調子が良くない。朝トイレに行こうとしたけれど、途中で動けなくなりベッドに戻れない。起こしに来てほしい。」という内容でした。
早々に点滴を済ませ、急いでTさんのお宅にお伺いました。
すると、Tさんはリビングの床に横になっておられました。
側で奥様と兄弟の方が心配そうに待っておられました。
私はTさんの顔を覗き込み、声をかけました。
(あっ、これは・・・・。)
Tさんの「がん」が見つかった時には、すでに末期の状態でした。
それでも、訪問看護の契約をされる1ヶ月ほど前までは「かっぷくの良いトラック野郎」としてお仕事もされていました。
契約時は痛みなどの症状はなく、同時に訪問診療も利用されるため、訪問看護は週1回で体調チェックをしましょうという事になっていました。
奥様の話では、この数日のうちにどんどん状態が悪くなられたようです。
昨日の朝食以降、食事はほとんど食べず寝てばかりで、今日は何も口にしていない。
そしてトイレに行くと言って起き上がったが、途中で動けなくなった。という事でした。
Tさんは、声掛けに目を開けうなずくことはされるものの、すぐ眠ってしまわれます。
身体は脱力してご自身では動けませんでした。
血圧などを測定後、4人がかりでTさんをベッドへ戻し、衣類を整え、主治医に状態の報告を済ませ、夕方には臨時の往診に入っていただくことになりました。
一段落し、私は今日初めてお会いした奥様に「ご主人とお別れまでの時間が長くはない事」をお伝えせねばなりませんでした。
往診時に医師から説明があると思うという前置きをした上で、ご主人とのお別れまで、あまり時間がない事、これから起こってくる身体の変化や急変の可能性についてお話ししました。
椅子に座って、奥さんの顔を見ながら、できるだけ分かりやすい言葉でゆっくり話します。
奥さんの目からは、ぽろぽろと次々涙が溢れ出てきます。
「一昨日までは元気そうだったのに・・・。」
同時に私も目の周りが熱くなるのを抑えながら、それでも私は話を続けました。
お別れまでの時間を入院して過ごされるのか。
自宅で過ごされるのか。
病院でできる事。
自宅でできる事。
私たちがお手伝いできる事を説明し、ご家族はどうしたいと思われるか話し合って欲しいとお伝えしました。
そして、何かあればいつでもオンコール携帯に連絡していただいてよい事、明日の朝一番でお伺いすすることを約束し、その日は訪問を終えました。
その後、Tさんはお別れまでの2日間をご家族と共に自宅で過ごされました。
病院では通常、病状の説明は医師が行います。
ご自宅の場合は、先に看護師から病状や予後について説明させていただく場合があります。
それは、医師も看護師も居ない状況での変化や急変に備え、「今、この時に」お話ししておかなければならないタイミングがあるからです。
Tさんの場合も、数日間の身体の変化の状況から考えて、いつでも急変が起こりうると判断しました。
主治医の往診までに急変が起こるかもしれません。私がお伺いしたタイミングが、「今この時」でした。
「今この時」を気付くことができる知識と直感力。
突然やってくる「今この時」に対応できる準備と対応力。
これも訪問看護師として、欠かすことのできないスキルではないかと思っています。